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第74回 安全・安心と情報 (2)・・キケンでも食べたい?ユッケ

2011年06月01日

 福島原発をめぐる問題では、「安心・安全と情報」が揺らいでいます。情報の出どころやデータが正しくても、伝えられ方が適切でないと混乱が生じます。また、情報の受け手側に問題があって安全が脅かされることもあります。

 食の安全・安心に関して、また、大事件が起こりました。ユッケを食べた人が食中毒をおこし、死亡者も出たのです。使われた生牛肉が、病原性大腸菌O-111に汚染されていたためでした。原因究明がおこなわれている最中ですが、病原性大腸菌O-111についての情報として、次のようなことは分かっていました。

(1) O-111は基本的にはO-157と同様の性質を持っている。

 食肉加工の段階で動物の便や体表に付いた菌が肉に付着。人体に入ると大腸で増殖し、ベロ毒素を出す。

(2) 極めて少量の菌で発症する。

 他の食中毒菌と異なり、この菌は数十個という極めて少量の菌数で発症する。

(3) 重篤化することがある。

 激しい腹痛・血便から溶血性尿毒症症候群や脳症を併発し死に至る場合もある。

(4) 潜伏期間が長い。

 潜伏期間が2〜9日と長いため、原因食材を特定しにくい。

 しかし、O-157と異なり発症例があまりなかったことから、一般市民にはこれらの情報は伝わっていませんでした。

 一方、食肉業者には、監督官庁から危険性に関して再三注意が出されていたとのことです。日本では、生食用として流通する獣肉はないそうですが、なぜか、ユッケ用の生モモ牛肉は、表面の肉をそぎ落とすトリミングをすれば安全とされていました。この「トリミング」をめぐって、情報を出す側と受ける側の解釈や思い込みが、事件の発生に繋がったのは間違いないようです。卸業者は 「これは加熱用だからトリミングは必要なし」として納入し、店側は「卸業者がトリミングしているから店では必要なし」としてそのまま客に出してしまった。そして、行政も 「生肉用の食肉はトリミングが必要」としながらも罰則規定もなかったため、黙認状態だったようです。食の安全の複雑な一面が垣間見られた事件ですが、消費者である客側に問題は無かったでしょうか。

 東京都の生食の意識調査(2009年)によれば、生肉を食べる人に、食中毒になる可能性を示した上で「今後も生食を続けるか」との問いには、1000人中669人が「食べる」「場合によっては食べる」と答えた。飲食店側も、メニュー作りのきっかけは、「客の求めに応じた」との回答が多かったとのこと。ここに価格競争が加わった故の事件と言えそうです。「危険を避けるためには、値段が高くなるのは当然。消費者も正しい知識を持ってほしい」とある専門家は呼びかけています。このことは安全・安心を考える上で、大事な視点だと思います。