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知って得する「食と薬の話」
ケンコージョイ情報管理室からお届けする連載エッセイです
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知って得する「食と薬の話」

第80回 安全・安心と情報 (8)・・不安全の情報・・茶のしずくの不幸

2011年12月01日

今年ほど「安心・安全」と向き合った年は、近年なかったのではないでしょうか?

 まず、突然の地震と津波で安心・安全が脅かされ、放射能の危険が追い打ちをかけました。つい最近になって、悠香が発売した「茶のしずく石けん」によるアレルギー問題も報じられました。これらの不幸な経験から、私たちは安心・安全な生活は、様々な条件がうまく作用し合って成り立っていることに気づいたと思います。つまり、不幸な被害は、不可抗力もありますが、それに関わる人の資質や意識、そして努力の如何によっても左右されるということです。

 これまで、安心・安全の情報をどのように得るかについて考えてきましたが、このことは、不安全・危険情報をいかにキャッチするかということにもなります。このシリーズの最後に「不安全(危険)情報の伝達」について考えてみましょう。

 「・・・れば、たら」という言葉があります。イメージとしては「そんなこと今更いっても・・・」という消極的な意味合いに使われることが多いようですが、この「れば、たら」の中から次なる有効な対策を見いだすことも重要ではないかと思います。

 加水分解コムギ(グルパール19S)を含む「茶のしずく」で被害にあった方は、

* あの石けんがなかったら・・・
* マスコミ、口コミで効果を宣伝しなければ・・・
* 小麦タンパク分解物が入っていなければ・・・
* 被害があったと教えてくれる人がいたら・・・
* 被害報告を役所がまともに取り上げていれば・・・
* 早く回収指示が出されていれば・・・

 などと思われたのではないでしょうか?

 安心・安全は生活を送るためには、個人の注意も欠かせませんが、厚生労働省や消費者庁などの行政機関の危機意識や迅速対応が重要となります。どのような問題点があったのか、行政発表や報道発表からひろってみると・・・。

【厚生労働省】
 2010年10月消費者庁等に「小麦加水分解物を含有する化粧品等」による、運動誘発性のアレルギーなどの副作用についてに通知。原因となる製品名、製造者名は示さず。悠香は原因物質を含まない製品を販売後も、既に販売した製品の回収は行わず。11年5月自主回収。既にテレビコマーシャル等によって盛んに宣伝。全国各地に約4650万個販売されていた。

【消費者庁】
 2010年10月15日に厚生労働省から被害事例の報告受理。通知に製品名や企業名などがなかったため、消費者庁は消費者安全法に基づく事故情報として扱わず、公表もせず。注意喚起を行ったのは、11年6月だった。

 被害者数は当初の報告では、アレルギー発症者が471人、うち66人は重篤な症例とされたが、日本アレルギー学会には1000件を超す症例が報告。各地の消費生活センターにも、健康被害の相談が936件寄せられているとの報道があり、被害が依然として拡大している状況にある。あらためて、「不安全(危険)情報伝達の重要性」を考えさせられます。

第79回 安全・安心と情報 (7)・・暗示的表現の罪

2011年11月01日

 薬の効果を調べるときに、プラセボ(擬薬)を使った試験が行われます。効果が期待される薬物を全く含まないプラセボでも30%程度は効果が出るとされています。これは一般に暗示や思い込みで起こるとされていますが、自然治癒も含まれと考えられています。なぜプラセボ効果が現れるかもまだ解明されていないそうです。

 医薬品の場合は、このプラセボ効果を差し引いた「真の効果」が認められたものが世に出るわけですが、実は、医薬品自体の効果にもプラセボ効果が大いに役立つことがあります。信頼できる名医から手渡された「おくすり」はよく効くという話はしばしば耳にすることです。

 健康食品の場合はどうでしょうか。「鰯の頭も信心から」ということわざもありますから、効果が証明されたものでなくても、人によっては効くかもしれませんね。「毒にも薬にもならないもの」を信ずることで、よい結果が得られればラッキーといえるでしょう。問題なのは、そのよい結果を体験談などとして周囲に広めてしまい、結果として人を惑わせてしまうことです(暗示的効果)。時として、悪徳商法を助長することにもつながります。

 薬事法では、暗示的な食品の広告・表示を禁じています。しかし、現実には、健康食品の広告・表示は「巧みな暗示」に満ちたものとなっています。最近の新聞広告から拾ってみましょう。

1 : 大手の製薬・食品メーカーのブランド力が効果や安全性を暗示させる
 大正製薬 : ワシのマーク、 小林製薬 : 薬剤師が相談に当たる、 味の素 : 安心して続けられるなど。
 決してグルコサミンやグリシンが効くとは書いてない。

2 : ○○賞受賞
▼ モンドセレクション金賞受賞
  多くの健康食品に見られる表示だが、金賞であっても「効果」とは関係がない。効果を保証する「賞」はない。
▼ 楽天市場ダブル賞
  ヒアルロン酸売り上げNo.1であっても、ヒアルロン酸の「効果」を保証するものではない。

3 : 暗示的な言葉
● 座る・立つ・歩く : グルコサミンが「膝の痛みに効く」と思わせる。
● しっかり休めない方、気がつけばもう朝 : ぐっすり眠れることを想像させる。

4 : 体験談 (有名人のコメント)
 個人の体験談は、たとえ本当であっても、その食品の「効果」を保証するものではない。

 大メーカーの新聞紙上の大広告は、とくに罪深いようです。

第78回 安全・安心と情報 (6)・・予防と安心の落とし穴

2011年10月03日

 予め危険や害を防ぐ・・・予防は、私たちが健康で平和に暮らすためには欠かせない概念です。予防の大切さは皆が承知しているところですが、いざ具体的に実行となるとなかなか難しいものです。まして「○○病の予防」となると簡単ではありません。病気の中でも「感染症」、たとえば、インフルエンザ・かぜや食中毒などは原因がはっきりしているので予防は功を奏します。予防ワクチンなどもありますが、日常の健康管理の中で行う予防も有効です。しかし、この場合には正しい情報に基づいた、適切な方法で行うことが大切になります。

 一昨年から世界的に流行した新型インフルエンザ対策を思い出してみましょう。 新型インフルエンザウイルスの病原性はさほど強くはなく、症状も対策も季節性インフルエンザとほぼ同じとされています。厚生労働省から出されている対策では、「石けん手洗い」と「咳エチケット」を2本柱としています。
 インフルエンザウイルスの感染をなくする要件は、(1)ウイルスを身の周りからなくす (2)ウイルスを体に入れない (3)ウイルスをばらまかない (4)ウイルスに負けない でしょうか。このうち(1)は不可能です。(4)は個人の体力や免疫力が関係しますので、一般的ではありません。残った(2)と(3)が予防策として有効ということになります。

 ウイルスに感染した人の体内でウイルスが増え、セキやクシャミの飛沫に混じって空気中に出る。それが付着したものを触った手から食物や食器を通じて体内に入ります。そこでまず、予防対策としてはこまめな手洗いが必要になります。インフルエンザにかかった人は、空気中にウイルスを出さないことが重要なのでマスク着用をすべきです。マスクはウイルスを吸い込まないためではなく、出さないためのものです。

 さて、一昨年来のインフルエンザ騒ぎでは、人々はマスク、うがい薬、手指消毒薬、はては空気消毒剤なるものまで買いあさりました。効果が疑わしいばかりでなく、害になるものもあります。連用により手荒れやのどの炎症が起こります。

マスク : 自分がインフルエンザにかかったときや、ごく近くに感染者がいる場合以外は有効ではない。

うがい薬 : うがい薬は基本的に殺菌消毒薬。うがい程度ではウイルスを確実に洗い出す効果すらなく、ましてウイルスを殺すことはできない。最近では、「うがい」は全く科学的根拠がなく、予防効果はないとされている。

殺菌消毒剤 : アルコール、ヨード、逆性石けんなどの殺菌消毒薬や医薬部外品、さらに除菌剤と称する雑貨品まで、多数の商品が飛ぶように売れた。「殺菌消毒」でウイルスが全滅する時は人も生きてはいられない。手に付着したウイルスを確実に洗い流すことが最善策。この場合に消毒薬はいらない。

 予防は大事ですが、漫然とマスクをつけ、アルコールジェルで手をすりすりし、うがい薬で常時がらがらしていれば「万全」という安心感に、落とし穴はないでしょうか?

第77回 安全・安心と情報 (5)・・OTC鼻炎薬がやめられない?

2011年09月01日

 「アレルギー性鼻炎」の患者数は年々増え続け、10人に1人以上が罹患していると言われています。花粉によるアレルギー性鼻炎は、春のスギ花粉症が筆頭ですが、秋にも多く見られます。このような季節性の鼻炎のほかに、「通年性」と呼ばれるアレルギー性鼻炎があり、アレルゲンは、ハウスダストやカビ類などとされています。
症状は「鼻づまり」「鼻水」などで、日常生活上不都合であるばかりでなく、睡眠障害も重大な問題となります。根本的な完治は難しいとされ、対症療法としてOTC点鼻薬、内服薬が用いられています。長期連用している人も多く、まとめ買いする人も少なくありません。このような方々にとって、少し気になるニュースが流れました。

 5月13日、厚労省麻薬対策課から「プソイドエフェドリン塩酸塩等を含有する一般用医薬品の販売時における購入理由の確認等について」という通知が出されました。「薬局の店舗にて購入したと思われるプソイドエフェドリン塩酸塩を含有する一般用医薬品からプソイドエフェドリンを抽出するなどして、覚せい剤を密造した疑いのある事案が発生したため」とのことです。内容は、「1回の購入量が60日分以上、もしくは7日以内に60日分以上の服用量にあたる量を購入する人に購入理由の確認をせよ」というもの。大容量のもので5箱分程度に相当する量です。英国をはじめとする海外ではすでに、管理・規制を強めていることもあり、日本においても販売方法等にしばりがかかりそうだと報じられています。鼻炎薬が手放せないという方にとっては、困った事態となりそうです。

 今回の規制は、OTC薬の目的外使用の理由によるものですが、医薬品として使われる場合でも鼻炎薬の長期連用は好ましいものではありません。内服用鼻炎薬の主成分は、抗ヒスタミン薬と血管収縮薬です。抗ヒスタミン薬の危険性(副作用としての眠気と認知障害)については第70回で書きました。
血管収縮薬(プソイドエフェドリン)は、交感神経を刺激して鼻粘膜の血管を収縮させ、鼻づまりを解消する一方で、高血圧、心臓病、甲状腺機能障害、糖尿病を悪化させるので、これらの疾患の方には使用禁止となっています。
かつて、同類薬のフェニルプロパノールアミンと脳出血の因果関係が明らかになり、その代替薬としてプソイドエフェドリンが使われるようになリました。多少弱いとはいえ同様の作用、副作用があります。また、「プソイ ドエフェドリン含有OTC薬服用後の心筋梗塞」の症例報告が出され、健常な若者においても危険性が示されました。

 鼻炎症状はつらく、困った状態であり、症状緩和のために多くの人が鼻炎薬を使用しています。プソイドエフェドリンには、弱いながら依存性があり、リバウンド症状も見られるので、このことが鼻炎薬の長期連用を助長している可能性があるとする報告もあります。安易に薬を使わず、鼻炎の原因と治療法をもう一度見直し、薬に頼らないで症状を緩和する方法を探すことが必要かもしれません。

第76回 安全・安心と情報 (4)・・室内空気は大丈夫?

2011年08月01日

 6月からの異常高温のせいでしょうか、今年はいわゆる衛生害虫の出没が早かったようです。ホームセンターや大型スーパーなどでは、昔ながらのハエ取りリボンやハエ叩きなどが異常な売れ行きだそうです。

 一般に、ハエや蚊、ゴキブリといった「衛生害虫」退治用には殺虫剤ということになりますが、「虫」に関係するものにはいろいろな種類があります。殺虫剤、防虫剤、虫除け、虫さされ薬など。虫さされ用の薬は別として、他のものは「いかにして虫を効率よく殺滅するか、撃退するか」が競われています。虫ばかりが狙われますが、実は人間も狙われていることをつい忘れがちです。

 市販の「虫関連商品」の成分のほとんどが農薬です。メーカーは「効果抜群、人畜無害」のように謳っていますが、利用の仕方には注意が必要でしょう。

 室内用の殺虫・防虫剤には、スプレータイプ、蒸散タイプ、昇華タイプなどがありますが、いずれも室内に薬剤成分が充満しますので、人間が吸わないわけにはいきません。商品の中身を知り、必要性と危険性を考え合わせてじょうずに使うことが肝要です。主な成分について見ていきましょう。

◆ジクロルボス
有機リン系農薬。樹脂蒸散製剤バポナなどに使用。即効性がある。
急性毒性が強い:吐き気・おう吐・胃けいれん、下痢等。
長期被曝:頭痛、記憶と集中力の障害、眠気や不眠症、倦怠感等。
中国餃子事件の原因物質の一つ。
注意:居室(客室、事務室、教室、病室を含む)で使用しないこと(第1類医薬品バポナ)。

◆ピレスロイド
合成ピレスロイド系農薬。
使用:バルサンなどのくん煙剤。キンチョールなどのスプレー剤。べープマットなどの蒸散剤。ミセスロイドなどの防虫剤。蚊取り線香。スミスリンなどのシラミ駆除剤。
毒性:ほ乳類への毒性は低いとされるが、中毒例の報告は多い。神経系(とくに胚と胎児・幼児)への影響、免疫系への影響、内分泌系への影響(環境ホルモン作用)が報告されている。

◆ディート
昆虫忌避剤(虫除け)として使用。
毒性:安全とされるが、重度の神経障害や皮膚炎などが知られている。海外ではこどもへの使用を厳しく制限している。

◆パラジクロルベンゼン
有機塩素系殺虫剤 。家庭用防虫剤の主流。
毒性は低いとされるが、神経細胞を興奮させ、正常な働きを妨げる。 アレルギーを悪化させ、化学物質過敏症の原因物質となる。皮膚炎、頭痛、はき気、下痢、チアノーゼ、肝臓・腎臓障害。日本での室内濃度は基準値を遙かに超えるという調査がある。

以上の他に、室内ではファブリーズなどの消臭剤、芳香剤、除菌スプレーなどが多用される傾向にあります。インフルエンザ騒ぎで、室内の細菌やウイルスを死滅させると謳った商品(雑貨品)には効果や安全性に問題があるとされたものもあります。

 何やら息苦しくなって来ましたが、心当たりはないでしょうか?本当に必要なものを最小限使用するのが賢明なようです。

第75回 安全・安心と情報 (3)・・タバコのかすかな臭いの危険性

2011年07月01日

 私達の日常生活にはさまざまな“危険"が潜んでいます。その中で食物、水、空気などに含まれる危険物質の多くには規制基準が設けられ、私達の安心・安全が守られています。しかし、3月の大震災に端を発した放射能汚染の問題では、基準値を巡って地域住民の不安が拡がりました。

 また、私達の健康にとって最大級の危険物質であるタバコの煙(受動喫煙)には規制や基準がないに等しいのが現状です。

 ところで、身近な危険物質の規制基準がどの様に決められているかをご存知でしたか?規制基準は、ある危険要因に一生さらされた場合に、さらされなかった場合より増える死亡(超過死亡)を基にして決められます。10万人当たりの生涯死亡リスクが何人という数値として表現されることが多いようです。

 たとえば、
  ◆食品の残留農薬基準:平均的な食生活を一生続けても、各々の農薬で超過死亡が一人もでないように決められている
  ◆アスベストの敷地境界基準:一生アスベスト工場のすぐそばに住んでも、アスベストの吸入により悪性腫瘍で死ぬ人が10万人中6.7人以下になるように決められている
また、環境中の最強の毒物と言われるダイオキシンでは、現在の日本人の平均的な食生活を一生涯続けた場合、食品に含まれるダイオキシンのために癌死する人は10万人中100人とされていますからかなり危険です。

 ではタバコ煙(受動喫煙)はどうでしょうか? かすかにタバコの臭いがする場所での10万人当たりの生涯死亡リスクは600人(慢性:長い時間過ごす時)と算出されていますから、家庭や職場での受動喫煙によるリスクはダイオキシンの比ではありません。にわかには信じられないかも知れませんので、ちょっと詳しく見てみましょう。

 最近PM2.5 (ぴーえむ・にーてんご)という文字を見たことはありませんか?微小粉塵といって直径が2.5μm未満の微小粒子濃度のことです。毛髪の直径の約30分の1ぐらいの粒子が1m3の空気中に何μg含まれるかを表すものです。なぜPM2.5 が問題になるかというと、直径が小さいので、肺の奥深く肺胞まで入り込み、炎症、動脈硬化、がん、気管支ぜんそくを引き起こすからです。

 ちなみに、「ほんの少しタバコの臭いがする時」はタバコ由来のPM2.5 は1μg/m3です。「タバコが目にしみる時」は4μg/m3 です。そしてPM2.5 が1μg/m3増えると、全死亡リスクは0.6%(慢性)増えると報告されています。このデータを基に、10万人当たりに換算すると生涯死亡リスクは600人です。家族喫煙では50μg/m3で50倍ですから全死亡リスクは30%増えます。「100mSv(ミリシーベルト)以上の放射線を受けた場合、がんなどで亡くなる危険性は100mSvあたり0.5%増える」というデータとよく比較されますが、どちらが危険かではなく、高い受動喫煙の危険性を減らすことが重要なのです。

第74回 安全・安心と情報 (2)・・キケンでも食べたい?ユッケ

2011年06月01日

 福島原発をめぐる問題では、「安心・安全と情報」が揺らいでいます。情報の出どころやデータが正しくても、伝えられ方が適切でないと混乱が生じます。また、情報の受け手側に問題があって安全が脅かされることもあります。

 食の安全・安心に関して、また、大事件が起こりました。ユッケを食べた人が食中毒をおこし、死亡者も出たのです。使われた生牛肉が、病原性大腸菌O-111に汚染されていたためでした。原因究明がおこなわれている最中ですが、病原性大腸菌O-111についての情報として、次のようなことは分かっていました。

(1) O-111は基本的にはO-157と同様の性質を持っている。

 食肉加工の段階で動物の便や体表に付いた菌が肉に付着。人体に入ると大腸で増殖し、ベロ毒素を出す。

(2) 極めて少量の菌で発症する。

 他の食中毒菌と異なり、この菌は数十個という極めて少量の菌数で発症する。

(3) 重篤化することがある。

 激しい腹痛・血便から溶血性尿毒症症候群や脳症を併発し死に至る場合もある。

(4) 潜伏期間が長い。

 潜伏期間が2〜9日と長いため、原因食材を特定しにくい。

 しかし、O-157と異なり発症例があまりなかったことから、一般市民にはこれらの情報は伝わっていませんでした。

 一方、食肉業者には、監督官庁から危険性に関して再三注意が出されていたとのことです。日本では、生食用として流通する獣肉はないそうですが、なぜか、ユッケ用の生モモ牛肉は、表面の肉をそぎ落とすトリミングをすれば安全とされていました。この「トリミング」をめぐって、情報を出す側と受ける側の解釈や思い込みが、事件の発生に繋がったのは間違いないようです。卸業者は 「これは加熱用だからトリミングは必要なし」として納入し、店側は「卸業者がトリミングしているから店では必要なし」としてそのまま客に出してしまった。そして、行政も 「生肉用の食肉はトリミングが必要」としながらも罰則規定もなかったため、黙認状態だったようです。食の安全の複雑な一面が垣間見られた事件ですが、消費者である客側に問題は無かったでしょうか。

 東京都の生食の意識調査(2009年)によれば、生肉を食べる人に、食中毒になる可能性を示した上で「今後も生食を続けるか」との問いには、1000人中669人が「食べる」「場合によっては食べる」と答えた。飲食店側も、メニュー作りのきっかけは、「客の求めに応じた」との回答が多かったとのこと。ここに価格競争が加わった故の事件と言えそうです。「危険を避けるためには、値段が高くなるのは当然。消費者も正しい知識を持ってほしい」とある専門家は呼びかけています。このことは安全・安心を考える上で、大事な視点だと思います。

第73回 安全・安心と情報(1)・・放射線障害を防ぐサプリメント?

2011年05月02日

前回福島原発事故に関して「風評被害に惑わされないで」と書きました。その後、危険の度合いや国の政策が刻々と変化し、不安や不満が高まっています。その中で生きる人々は「何を信じればいいのか?」と焦りを隠せません。しかし、個人が自分の責任で対策がとれない以上、責任をもった国の情報を信ずるしかないでしょう。少なくとも科学的に認められたデータに基づいていると思われるからです。

一方、 インターネット上には「放射線被曝の害から身を守るために抗酸化物質を取ろう!」というサイトがいくつも見られます。こんな状況の中で、自己防衛のためにサプリメントなどを取ろうとすることもまた無理のないことかも知れません。

放射線障害が起こる仕組みは次のように考えられています。生体内の水への放射線照射により、スーパーオキシドアニオンラジカル (O2-)やヒドロキシラジカル (・OH)という二つのフリーラジカル(非常に不安定で、発生するとすぐに周りの物質とくっついて酸化してしまう。人の体の中では常に発生しているが、体自体が無毒化する仕組みを持っているので、通常は大きな害はおよぼさない)が発生して遺伝子や細胞を傷つける。したがって、理論的にはフリーラジカルによる酸化を防げば、障害を受けないで済むことになります。つまり抗酸化物質(ビタミンCや ビタミンE、α-リポ酸など)が役立つかも知れないというわけです。

しかし、2004年〜2005年にかけて発表されたビタミンC、ビタミンE、カロチノイド等の抗酸化物質をボランティアに投与する大規模な試験(二重盲検法という信頼性の高い試験)は、これらの抗酸化剤がフリーラジカルを消去できないことを示しました。サプリメントや代替医療の世界では、さまざまな抗酸化物質が予防に有効と言っていますが、その根拠となるデータは、ほとんどが動物実験です。ヒトでは実験が難しいので、疫学調査(信頼性の高い調査法)が必須ですが、科学的に信頼のおける結果は得られていません。

ちなみに、医療の分野では、ビタミンC,ビタミンE、α-リポ酸などの抗酸化物質が放射線障害の予防薬として用いられることはありません。むしろ、α-リポ酸による自発性低血糖症やコエンザイムQ10と降圧剤または血糖降下剤との相互作用など、過剰摂取による副作用が心配されます。
最近は、いろんなところで「安心・安全」が語られていました。たとえば、「食の安全・安心」「安心・安全な街づくり」、あるいは医療分野でも「医療の安全・安心」・・という具合です。そんな言葉になんとなく安心していたような気がします。

しかし、あの日(2011/3/11)を境に、正真正銘の「安全・安心」が突きつけられています。住む場所の安全・安心から考え直さなければならなくなりました。そんな中で、身近な「安全・安心」が正しく判断できるような情報をお伝えしていきたいと思います。

第72回 健康食品情報を読み解く(7)・・(健康)食品情報と風評

2011年04月01日

3月11日、未曾有の大災害が発生し多くの人の命と生活が奪われました。加えて原子力発電所事故も起こり、世の中の不安が高まっています。

このコラムでは、前回、ヒトが食べたときの効果が科学的に検証されていない健康食品の情報について、あまり周囲の雰囲気を読まない方がよいと書きました。健康食品の効果情報はいわば風評に負うところが大きいわけですが、いま、もっと深刻な「風評」の問題が起こっています。

原発事故がニュースになった初期のころから、「雨に当たると毛が抜ける」「昆布を食べなければ」「イソジンうがい薬の買い占め」などなどの情報が駆け巡りました。

専門家は「冷静に。直ちに人体に影響はない。ヨードの摂取を指示する段階ではない。うがい薬は決して飲まないように」と訴えましたが、実際に避難や野菜類の出荷停止、摂取制限がおこなわれたので、新たな風評が広まっているようです。

ここで、私達は何を信じて、どの様な行動を取るのかが問われることになります。

ポイントは、(1)放射能の影響を正しくとらえる  (2)避難や出荷・摂取停止が指示された意味を理解する(3)リスクのレベルと対象者を正しく評価し、各自の生活を考えるなどでしょうか。

このうち最も重要な(1)に関しては、日本における放射能被爆や放射線医学の複数の専門家からの情報が出されていますし、政府の発表・報道もそれらの科学的事実をふまえた妥当なものだと評価されています。福島第一原発事故そのものは重大な結果を引き起こす危険性をはらんではいますが、現時点での人体への健康被害リスクは、空気、水、野菜、牛乳いずれにおいても「ほとんどない」という専門家かの情報を信じて判断するのが賢明なようです。ただし、ハイリスク対象者としての子供にはレベルに応じた特別の対策が取られるのは当然です。

(2)は国民の健康を守るための国としての施策ですから従わざるを得ませんが、この場合には、各地点での正確な放射線量の測定と結果公表が不可欠です。

(3)については、まさに風評に惑わされない、風評情報を発信しないことが重要です。

不安が不安を呼んで、避難対象地域への偏見などの社会現象も起きているようです。健康食品の効果風評も問題ですが、こちらはより深刻です。

冷静に考えれば、日常生活の中にも今回の放射線汚染レベル以上に危険性なものがあります。発がん性との関連で問題になったアスベストの環境中濃度は常時監視されてはいませんし、今回のレベルの放射能を1カ月間浴び続けるよりも、たばこを一箱吸う方が寿命を縮めるということも知られていることです。葉菜や牛乳の種類や産地を拡大解釈して不必要な買い控えをしたり、放射能障害に効くとされる食品の買いだめに走るなどは、風評を一層拡げることになります。

第71回 健康食品情報を読み解く(6)・・健康食品情報と想像力

2011年03月01日

最近のテレビや新聞の広告はすごいですね。あれでは効く薬だと思ってしまう人がいても不思議ではありません。何の疑いも持たずに買う人もいれば、あのようなコマーシャルがどうして、何の規制も受けないのかと思う人もいるでしょう。

健康食品は、もともと自己矛盾を抱えた商品です。(1)ヒトが食べたときの効果が科学的に検証されていないので「効く」とはいえない(謳えば薬事法違反)。(2)効くと思わせなければ買ってもらえない。しかし、健康食品は沢山売れているわけですから、(1)と(2)の間を埋めるために、メーカーは巧みな仕掛けをしているということになります。

世の中に、「KY」というキーワードがあるそうですね。「空気が読めない」として軽蔑されるようです。しかし、健康食品情報については、あまり周囲の雰囲気を読まない方がいいようです。想像力を働かせて、チラシなどに書いてないことまで読み取ってしまうと、すっかり「いいことずくめ」の虜になります。

たとえば、「ブルーベリー(ビルベリー)」についてみましょう。

有名メーカーのインターネット上のホームページ。何ページにもわたる華やかなPR画面を見ていくと、商品には、「ブルーベリー★★」という商品名とメーカー名と「北欧産野生種ビルベリー100%使用」「ナノビルベリーエキス配合」以外には書いてありません。そして、膨大なPR画面から読み取れた「事実」は、(1)北欧産野生種ビルベリーが原料であること (2)アントシアニンが一般栽培種ブルーベリーより多く含まれること。(3)ビルベリーエキスを超微細化(ナノビルベリーエキス)したこと。以上3点だけでした。アントシアニンが何に効くのか、どの様にからだに良いのかについてはもちろん書かれてはいません。随所にちりばめられているキャッチフレーズは、以下のようです。

高品質のアントシアニンを目指して学術機関や大学との共同研究
ナノ化に大成功!吸収が良くなる
新成分「ナノビルベリー」が入ってパワーアップ!
モンドセレクション 国際優秀品質賞受賞、最高金賞受賞
北欧ラップランド地方の森、湖、白夜が育むアントシアニン豊富なビルベリーを使用
そして沢山の写真入りの「驚きと、喜びの声々」・・具体的にどこがどう良くなったと言う話しはなく、ただ良かったというもの。

これらはビルベリーの効果とは関係のない事柄ですが、想像力がはたらいてそれぞれがすべて「健康に良い情報」としてインプットされていきます。一般的に巷で流布している「ブルーベリーは目によい」以上の効果を予想させるような情報に変化しているわけです。一例としてブルーベリーを取り上げましたが、特にブルーベリーが問題ということではありません。情報の読み方として参考にしていただきたいと思います。

第70回 健康食品情報を読み解く(5)・・サプリに抗アレルギー作用?

2011年02月01日

昨夏の猛暑の影響で今年の花粉飛散量はすごいと予想されているようです。毎年のことですが、この季節になるとさまざまな“花粉症克服術”が報じられます。「花粉症サプリメント」の広告もよく目にします。甜茶、ケルセチンなどが人気ランキング上位に入っているとか。甜茶やケルセチンのポリフェノールにはアレルギー症状のもとになるヒスタミンの抑制作用、抗ヒスタミン作用があるとされています。もし効果が得られる程度であれば以下に述べる点に注意が必要でしょう。ヒスタミン抑制作用、抗ヒスタミン作用・・?そう、鼻炎薬でおなじみの作用ですね。ヒスタミン抑制作用(ヒスタミンの放出を抑える)と抗ヒスタミン作用(ヒスタミンの働きを弱める)は違いますが、サプリメントの世界では同じように、あるいは混同して使われており、ヒトでの確かな検証もありません。

抗ヒスタミン薬についてはこのコラムでは何回か取り上げています(No.44 ,No.47)が、今回は添付文書に書かれた注意書きの読み方という視点から書いてみます。

抗ヒスタミン薬は、鼻炎薬、かぜ薬、咳止め薬、乗り物酔い止め薬、じんましん薬などに広く配合されていますが、困った副作用として「ねむけ」があります。これらの薬剤の添付文書には「服用後、乗り物または機械類の運転操作をしないで下さい」と書かれています。居眠り運転防止のためだと思いますよね。しかし、最近の研究によれば、この注意書きはもっと深読みする必要がありそうなのです。

OTC薬(一般薬)の抗ヒスタミン薬(マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸クレマスチン、ジフェンヒドラミンなど)は、「ねむけ」の他に「認知能力・判断力の低下」を起こすことが専門的には知られています。「自分は眠くならないから大丈夫・・」と思って運転をしている人は大勢いると思われますが、ここに落とし穴があるというお話しです。

抗ヒスタミン薬では、軽い飲酒と同様ブレーキを踏むタイミングが遅れたり、左右の安定性を保つ能力が損なわれて追突しやすいことがわかっていますが、この作用が服用後どの程度続くかを証明した研究が発表されました(2010/12/22朝日新聞報道)。

東北大チームが同大のPET(ポジトロン断層)装置を使って、抗ヒスタミン薬のうち眠くなるタイプと眠くならないタイプとを8人の被験者に飲んでもらい、12時間後の脳内の残存量を比較したもの。結果によると、抗ヒスタミン薬は服用後12時間たっても脳の中から抜けきらず、経験的に知られる「薬の二日酔い」が世界で初めて実証されたという。 OTC薬に使われている抗ヒスタミン薬のほとんどは眠くなるタイプで、12時間後の脳内の残存量(薬が作用する場所に残っている割合)は50%であり、強い眠気と脳の機能障害が起きるレベルだった。研究者は、「車の運転や受験を控えた夜の服用にはやはり注意が必要だ」と呼びかけている。これからの季節が心配である。行動には「認知機能が下がっている」という認識が必要かもしれません。

第69回 健康食品情報を読み解く(4)・・脂肪を燃やすとは?

2011年01月04日

お正月休みが終わるころ、なにやら体が重〜くなっていることに気づき・・という方もおられるかもしれませんね。新年事始めは「脂肪を燃やせ!」でしょうか。

そこで今回の「読み解き」は「脂肪を燃やすとは?」です。

☆お腹の脂肪を燃焼させる!
☆たまった脂肪を分解・燃焼させる!
☆脂肪を分解・燃焼して・・・!
☆ 脂質の代謝を上げて、体脂肪を落とす!「あぶらを燃やす?」「どこで?」「どんな風に?」

これらのコピーは、「ダイエットサプリメント」の宣伝文句ではありません。今時こんなことをサプリメントに書いたら、たちまち薬事法違反で摘発されます。そう、これらはれっきとしたOTC医薬品のパッケージに書かれている文言です。中身は防風通聖散や大柴胡湯という漢方薬。効能効果の一部に「肥満症」と書かれていることを拡大PRしています。医薬品ですから全く根拠がないわけではありませんが、「肥満治療薬」というわけではありません。それに、どの様なメタボの人でも使えるわけではなく、チェックをしてみればメタボ年齢の人では使えないケースも多いのです。

ともあれ、「肥満症」という効能がありますから、その根拠を探ってみましょう。

「脂肪燃焼!」の根拠とされているのは、漢方薬の中に含まれている「麻黄(マオウ)」という生薬の成分「エフェドリン」の作用です。エフェドリンは交感神経を刺激して、さまざまな作用を現しますが、そのひとつに「エネルギーの消費を高める作用」があるとされています。エフェドリンの作用によって心臓が高鳴り、目は見開き、呼吸があらく、胃の働きはストップなど、戦闘態勢(緊張状態)となります。このような状態が続けばおそらくは痩せるでしょう。実はこの種の作用をもつ薬物は沢山ありますが、どれも肥満治療薬とはなっていません。治療薬として安全かつ有効に使えるものがないからです。では、防風通聖散はどうでしょう。

ここで量的な問題を考えて見ましょう。漢方薬は処方が定められており、決まった種類の生薬が決まった割合で配合されています。例えば、マオウが主薬の麻黄湯(ツムラ漢方)でも1日当たりの麻黄配合量は5g。その中に含まれるエフェドリンは

17.3mgとされていますから、防風通聖散ではその1/4程度と思われ、エネルギー消費にはあまり効果はなさそうです。ちなみに、エフェドリンは気管支拡張作用を利用して市販の咳止め薬として使われていますが、その1日量は75mgです。咳止め薬は大量に飲み続けるととても危険です(薬物乱用)。

結局は、防風通聖散は便秘薬として使われているケースが多いようですが、便通改善のために使うのは得策ではありません。緩下剤の他にカンゾウやオウゴンなど重篤な副作用を起こしやすい成分が含まれているので注意が必要です。

第12回 「健康食品」の食べ方 (2) アガリクスとがん

2006年04月01日

 「健康食品」に期待される効果の最大のものは「抗がん作用」でしょう。キノコ類には抗がん作用があるといわれるものが多く、なかでもアガリクスは筆頭格です。

〈アガリクスががんに効くとされるわけ〉

 がんに効くと言い伝えられてきたキノコは20種類ぐらいあるといわれ、古いものでは1500年も前の書物に記録があるそうです。しかしアガリクス(アガリクス・ブラゼイ・ムリル、ヒメマツタケ)は約40年前にブラジルから日本に送られて培養され、ベルギーのハイネマン博士によって鑑定されたという新参キノコです。現地では常食キノコだそうですが、日本では最初から薬効が期待されるキノコとして研究されました。そして次々にがんに対する効果が発表されましたが、これらは全て試験管内の実験または動物実験です。これらの結果がヒトで効くかのごとく宣伝され、科学的に信頼のおける検証がないままに、「治った」「消えた」と多くの体験談が発表されているのです。

〈アガリクスのがん抑制効果の科学的検証〉

 医療の分野の学術文献を集めている世界最大のデータベースの検索結果では、ヒトを対象にした科学的に認められた研究報告はないとのことです。

〈アガリクスの有害情報〉

◆劇症肝炎による死亡例・・・アガリクスが原因と見られる劇症肝炎で3人が死亡(2001年)、肺がん切除後の再発防止のためにアガリクスを摂り、3週間後に体調悪化。入院後死亡(2003年)など多数の報告があります。

◆発がんを促進する作用あり(ラットでの実験)・・・アガリクスを含む市販の3製品について毒性試験を実施。発がんを促進する作用を確認する試験で、1製品が促進作用ありと出たとの発表がありました。(厚労省医薬食品局発表、2006)

〈アガリクス製品の安全性〉

 アガリクスには有害成分アガリチンが含まれることが知られています。アガリチンは他の食用キノコにも含まれていて、発がんに関係の深い「変異原性」を有することがわかっています。ただしアガリクスの種類や製造方法によってはアガリチンを含まないものもあります。アガリクス製品を扱う販売業者が183商品についてアンケート形式で製品内容を調査した結果、ほとんどが公的試験機関でのアガリチン含有試検をしていないことが分かりました。

〈アガリクス製品の利用〉

 アガリクスの有効成分とされるβ-D-グルカンは、多糖類と呼ばれる食物繊維の一種です。免疫力を高めることにより抗がん作用をあらわすと言われていますが、その仕組みや効果の程度はまだ明らかではありません。研究が進んで確かな効果が示されるまでは、安全性の面から利用は慎重にすべきでしょう。

第11回 「健康食品」の食べ方 (1) 大豆イソフラボンの功罪

2006年03月01日

新聞紙上などで「大豆イソフラボン」の過剰摂取への注意が報じられています。身体に良い食品でも食べ方には注意がいることを事例を追ってみていきましょう。

〈大豆イソフラボン〉

 厚生労働省の依頼を受けた「食品安全委員会」では、食品成分「大豆イソフラボン」の過剰摂取に注意を促す報告書案を出しました(1/31)。不正確な報道もあって生活者の間で混乱もあるようです。ここで情報を整理してみたいと思います。

◆ 大豆イソフラボンとは・・・

大豆の胚芽部に特に多く含まれる成分。大豆はもちろん、豆腐、納豆、みそなど大豆を原料とする加工品のほとんどに含まれており、日本人は通常の食事から一日に16〜22mg(大豆イソフラボンアグリコンとして:H14国民栄養調査)程度とっています。大豆イソフラボンは身体の中では大豆イソフラボンアグリコンとしてはたらくので、アグリコンと表示されることもあります。摂取量○○mgという数値をみるときはどちらなのか注意が必要です。女性ホルモン(エストロゲン)に似た作用を持つとされていますが、反対に抗エストロゲン様作用もあることが分かってきました。

◆ 大豆イソフラボンの有効性と危険性

乳がんを抑制する(ラットの実験)、乳がん発症率の減少(日本人女性での疫学調査)、骨粗鬆症予防に効果(トクホがある)、更年期障害の症状改善(閉経後の女性)などの有効性情報がある反面、 ホルモンのバランスを崩すおそれ、 生殖機能の異常、 大腸がんや肺がんの促進(ラットの実験)、 乳がんのリスク増加などの危険情報もあります。

☆ 総合的な判断(食べ方)

大豆イソフラボンは現在、有効性と有害性を併せ持つことが示唆されていますが、何れの報告も厳密な意味での科学的評価はされていません。食品としての安全性から言えば、疑わしさが残る場合は制限すること(予防原則に基づく考え)が健康被害を防ぐ道だと思います。報告書では、通常の食事で摂取される大豆イソフラボン量に上乗せできるサプリメントなどからの摂取量の上限を30mg(アグリコン)とし、妊婦や乳幼児ではサプリメントなどでの追加摂取は避けるようにとしています。現在、さまざまな食品にイソフラボンが添加されています。知らない間に過剰摂取となる危険性がありますので表示に注意しましょう。

イソフラボンは大豆の一成分です。大豆には他にたんぱく質や脂肪、ビタミン、カルシウムなど良い栄養素が含まれており、日本の伝統的な食品です。 通常の食事の中で大豆および大豆製品をとることには何の問題もないことは言うまでもありません。

第10回 薬の効き方が変わる〜相互作用のはなし〜

2006年02月01日

〈薬との飲み合わせ〉  前回「抗血液凝固薬ワーファリンとなっとう」の話しをしました。納豆のようなからだによい食べ物でも、食べてはいけない人がいると書きました。これはどういうことでしょうか。口に入れるモノ(食物や薬)は、普通はそれぞれが直接からだに効果や害を及ぼしますが、他のものと飲み合わせたときに違った効果や害が現れることがあります。このことをお互いに作用を及ぼし合う、つまり相互作用があるといいます。相互作用の多くは二種類以上の薬を併用している場合におこりますが、薬と食物との間にもみられます。具体的な例についてお話ししましょう。

【薬と薬の相互作用】

 Oさんは、アレルギー性の皮膚炎のため皮膚科の医師から処方せんをもらい、かかりつけの薬局からかゆみ止めの薬を受けとって飲んでいました。春先に花粉症のような症状がでて耳鼻科医院に行ったら鼻炎の薬がだされ、両方を一緒に飲み始めました。飲んで30分ぐらい経つとどうしようもないくらい眠くなり、起きていられなくなるるとのことです。Oさんはかかりつけ薬局の薬剤師に問い合わせて、飲み合わせると眠気が強まることを知りました。これは、薬剤名も使う目的も異なっていますが、同じ種類の薬なので「副作用である眠気」が強まった例(相互作用)です。

相互作用にはつぎのようなケースがあります。

◆併用薬の作用を強める  ◆併用薬の副作用を強める  ◆併用薬の作用を弱める

【薬と食物の相互作用】

 Sさんは夫とともに長い船旅をしました。朝食バイキングのグレープフルーツジュースが気に入って毎朝飲み続けたそうです。実はSさんは高血圧症で、コニールという血圧の薬(カルシウム拮抗薬)を飲んでいました。まもなくSさんは体がフワフワしてまるで雲の上を歩いているような感じになったそうです。船酔いかと思っていましたが、薬をもらうときにグレープフルーツのことを言われたような気がしたので、帰国してから説明書を見たら「グレープフルーツジュースと一緒に飲まないように」との注意が書いてあった。これは、グレープフルーツジュース(果肉部も)に含まれる成分が、カルシウム拮抗薬の効果を強めるために、血圧が下がり過ぎたと思われる例です。

薬と食物の相互作用にも次のようなケースがあります

◆飲んでいる薬の作用を強める  ◆飲んでいる薬の副作用を強める  ◆飲んでいる薬の作用を弱める

具体的な薬剤名や食品名は挙げませんが、薬を飲んでいる方は必ず自分の飲んでいる薬について、併用してはいけない薬や食品は何かを薬剤師に調べてもらうことをお勧めします。

第9回「効きそうな食品」のかしこい利用(5)自分のこととして考える

2006年01月05日

今年も健康で・・・お正月は、年賀状などでお互いの健康を確かめ合い、よい年であるように願います。正月料理をいただきながら、健康と食品のことを見直してみるのもよいかもしれません。そこで、「効きそうな食品の問題点」の締めくくりとして、病気や服用薬との関係をみていきましょう。

前回副作用」のところで触れましたが、健康障害は、多量摂取によるところが大きいと言えます。さらに、アレルギーや病気の有無、飲んでいる薬の種類など個人のもつさまざまな要素が関係しています。つまり、効き方も副作用の出方も個人差が大きいということですから、自分にとってどうなのかを考えることが大事です。

【アレルギー誘発】アレルギーは、外部から体の中に侵入してくるものを排除するための免疫の仕組みが過剰に働いてしまうもので、原因となる特定の成分と個体の問題です。原因が食物成分による場合は、食物アレルギーと呼ばれますが、実は「効きそうな食品」素材の中には、プロポリス、サイリウム、イチョウ葉エキスなどアレルギー誘発物質がたくさんあります。一般的な健康食品素材のうち半数以上にアレルギーの報告があると言われています。アレルギー反応は少量でも起こりますし、何で起こるか、誰に起こるか分からないのです。具体的なアレルギー注意表示がなされている商品は少ないので、アレルギー体質の人は慎重に利用すべきですし、自分に良かったからといって、むやみに周囲の人にすすめるのは危険なことです。

【病状の悪化】さまざまな素材が用いられている「健康食品」には「巷の情報」というものがあり、ヒトでの効果が明らかでないものが「全てのヒトに効くもの」として伝達されるために、うっかり摂るともとの病気が悪化することがあります。前回取り上げた「肝臓によいとされる」ウコンで肝臓病が悪化して死亡した例や、「関節痛に効くと人気のグルコサミン、コンドロイチン」の摂取により、ぜんそくが悪化した例も報告されています。ブームとなった「にがり」では、腎臓病や高血圧が悪化する恐れがあります。

【薬との飲み合わせ】高齢者が増えている現在では、なんらかの薬を使いながら健康を維持している人が大勢います。したがって、薬と薬・薬と食品の飲みあわせ(相互作用)に注意が必要になります。もし食べ物などに薬の効き方に影響を与えるものがあれば、病状が安定しなかったり、場合によっては命に関わることも起こります。

たとえば、脳や心臓の手術の後などに抗血液凝固薬ワーファリンを飲んでいる人は、なっとう・クロレラ・青汁など(ビタミンKを多量に含むもの)は食べないように注意されている筈です。ビタミンKの血液凝固作用がワーファリンの効果を弱めてしまい、血栓ができやすくなるからです。納豆や青汁はからだによい食べ物ですが、食べてはいけない人がいるのです。

薬と薬・薬と食品の飲みあわせに注意が必要なものはたくさんあります。次回はここのところを少し詳しくお話しします。

第8回「効きそうな食品」のかしこい利用(4)食品でも副作用?

2005年12月06日

副作用・・・よく聞く言葉ですね。副作用に対して「主作用」という言葉があります。たとえば、かぜ薬や鼻炎薬に含まれる抗ヒスタミン薬は「はなみず」などに有効(主作用)ですが、副作用として「ねむけ」「口の渇き」などが現れることがあります。このように、期待する(望ましい)作用に対して期待しない(害になる)作用のことを言い、一般的には「医薬品」について用いられますが、「効きそうな食品」にも副作用の可能性があります。つまり、「効きそうな食品」とは何らかの作用を持つ成分を含むものと考えられるからです。

NO.5(2005/8/1)から取りあげている「いわゆる健康食品の問題点」の4点目は、「アレルギーや副作用の情報がほとんど提供されていない」ことです。実は、効果や副作用というのは作用をもつ物質の量に関係します。薬の場合には治療という目的がありますから、少々の副作用がでても効果がはっきり得られる量を用いますが、食品では害(副作用)がでてはいけません。通常の食材として食べ継がれてきたものは、栄養素やおいしさを満たし、健康障害を起こさないものでした。しかし、前回も書いたように現在の「効きそうな食品」は、加工・濃縮型が大半です。通常の摂取量の何倍もの量を取ることになります。このことが思わぬ副作用をひきおこすことになるのです。

副作用でもっとも多いのが肝臓障害。ハーブなどのサプリメントによる重篤な肝障害の報告が多数あります。ウコンについて考えてみましょう。

「肝臓によいウコン」で肝臓病が悪化して死亡・・ という新聞報道(2004/10)を覚えているでしょうか? 「えっ・・・?」と驚いた方もいたかと思います。

ウコンは、カレー粉の主成分として、黄色色素・香料として日常的に使われており、生薬製剤の成分として医薬品にも使われています。古くから消化を助け、腎臓や肝臓の働きを助ける民間薬としても使われてきましたが、近年、巷では「肝臓いい」「酒を飲む人にいい」とされ、多量の摂取が見られるようになっています。このような状況の中、健康被害・死亡例が報告されました。もともと肝臓に障害があった人がウコンの摂取により症状が悪化して死亡したということです。他にも例があり、原因ははっきりしていませんが、もともとウコンには有害な成分も含まれており、少量であれば健康な肝臓で無毒化されるものが、弱った肝臓では大量の有害成分が処理しきれず、肝臓の細胞が障害されたと考えられています。効果についてはさまざまな研究や報告がありますが、ヒトが食べて有効であるという、科学的に信頼される報告はまだないそうです。

カレーライス大好き人間が肝臓を悪くしたという報告もないそうですので念のため。「肝臓に自信のない場合はあまり多量のウコンは取らない」ということを肝に銘じた方がよさそうです。商品にこの種の情報はほとんどありません。

第7回「効きそうな食品」のかしこい利用(3)多いことは良いことか

2005年11月01日

秋たけなわ…この頃になると必ずと言っていいほどキノコ中毒のニュースが聞かれます。昨年はスギヒラタケで死者が出て大騒ぎになりました。その地方では常食キノコだそうですから、毒キノコを間違えて食べたわけではありません。未だ原因が解明されていないので、この場合は何ともいえませんが、私たちが季節の味や香りとして楽しんでいるものの中には、ワラビやフキノトウ、キノコなど量を過ごせば中毒症状をおこすものや発がん性があるものなどが沢山あります。幸いにも旬は短く、経験的な毒消しノウハウのおかげで、大事には至らずに季節の恵みをいただいてきたのだと思います。食材を食事として摂っている限りでは大量摂取はおそらくないでしょう。

しかし、最近の「効きそうな食品」では事情が異なります。以前は、薬と紛らわしいとして認められなかったカプセルや錠剤などの形態が食品にも認められるようになって、調査によれば現在出回っている「効きそうな食品」の60%以上がカプセルや錠剤だそうです。このことがなぜ問題なのかを見てみましょう。

よく見られるのは、「××抽出液の有用成分をそのまま凝縮し、・・・ソフトカプセルに封じ込めた」「貴重な○○、△△個分を濃縮エキスにして錠剤にした」など、高濃度、多量が良いと印象づけるものです。そして天然素材であることを強調しています。前述のように、天然の動植物には人間にとっては毒となる成分も含まれており、それも一緒に濃縮されることになります。医薬品の場合は(漢方薬は例外ですが)、有効成分のみを抽出精製し、動物実験、ヒトでの試験など、様々な段階を経て有効性や安全性がチェックされますが、食品ではそのようなことはほとんどありません。

濃縮型製品の問題点は主として次のふたつ。

  1.有効成分も有害成分も高濃度になっている可能性 → 有効成分の過剰摂取、有害作用の発現
  2.連続して毎日摂取することが容易 → 過剰摂取による健康障害の可能性

食材として食事の中で利用する場合は、季節性、一度に食べられる量、好みなどから、大量・連続摂取は避けられますし、万が一不具合が起こったとしても、因果関係がわかりやすいと言えます。

【多量、長期使用による健康障害が知られている例】

  ●併用した薬の作用が強まり脳内出血を起こした・・・抗血液凝固薬(ワルファリン)とイチョウ葉エキス
  ●肝臓障害が悪化した・・・ウコン
  ●呼吸器障害(閉塞性気管支炎)を起こした・・・アマメシバ

濃縮加工型の食品は、通常では食べられない量、味、臭いのもの、食習慣のない海外の産物などを摂取可能にしますので、さらに注意が必要です。

第6回「効きそうな食品」のかしこい利用(2)ヒトが食べて効くか

2005年10月01日

「効く」という表示は食品には認められていないといわれても、腑に落ちない方もいると思います。確かに商品には明示されてはいませんが、「○○にいい」とか「△△が治る」という話は“常識”のようになっています。そしていつの間にか「効きそうな食品」が「効く食品」となってしまうのです。ここにひとつの落とし穴があります。

(2)「ヒト」が「食べて」「効く」ことの証明

 1.A大学のB教授が、××に抗ガン作用があると発表。でも、よく読むと試験管の中でガン細胞に××の抽出
   物を振りかけたらガン細胞が死んだとか、ネズミのお腹の中に××エキスを注射したら、ガンが小さくなった
   というもの。ヒトが食べた結果ではない。
 2.C博士が、ネズミに××エキスを餌に混ぜて食べさせたらガンが消えたと報告。これもヒトが食べた実験結
   果ではない。

「効きそうな食品」の情報は、ほとんどが1.か2.のレベル、つまりヒトが食べての効果ではないのです。では、なぜ「ヒトが食べて」が重要なのかを考えてみましょう。

  ●ヒトで効果があるかどうかはヒトで試験しなければ分かリません。薬の効き方や副作用の出かたは、ひと
   り一人の体質(遺伝子)によって違うことはよく知られています。ヒトの間でも違うのですから、種が異なるネ
   ズミやイヌでの実験結果がそのままヒトに当てはまるとは限らないのです。
  ●「食べて」なのかどうかかも重要です。食品ですから必ず消化と吸収の過程を経ます。口→胃→腸→血液
   →効果をあらわす臓器・器官の道中で、消化されて効きめがなくなったり、吸収されないで素通りする成分
   は、試験管の中でいくら威力を発揮したとしても、食べては効きめがありません。実際に、治療用の薬でも
   注射で直接血管内に入れないと効果がないものがあります。内服では胃腸内で消化・分解してしまうから
   です。
  ●最後に、「効く」かどうかが問題です。「ヒトが食べて効く」ことを証明するためには、一定の条件の下に、
   ××成分を食べたヒトと食べないヒトを分けて比べてみなければなりません(無作為比較対照試験という)。

実際には、食品でこの試験を行うことは非常に困難といわれます。10年単位の時間と少なからぬ費用がかかるので、日本ではあまり行われていないようです。ということは、「効くといえる食品」はほとんどないということになります。それでは、「効きそうな食品」は全く効果がないのでしょうか?

長い食経験や、動物試験などで効果が認められているものには、おそらく有効なものも数多くあると思われます。ヒトに対する効果や害についてはっきり分かっていないことを理解した上で、安全性を確かめながら試してみるということになるでしょうか。

第5回「効きそうな食品」のかしこい利用(1)安全性と品質

2005年09月01日

前回、「いわゆる健康食品」の問題点として5つの点を挙げました。問題点を知ってかしこく選ぶ方法を見つけましょう。

(1)安全性と品質

食物をとる主な目的は、生命・健康の維持ですから、まず、安全でなければなりません。たとえ効きそうであっても、健康障害を起こす可能性のある食品は避けるべきでしょう。

製品化された食品が安全であるとは

 1.原料に有害性がない。
 2.食品に認められた添加物以外のものを含まない。
 3.カビや農薬等に汚染されていない。

1.に関しては、コンフリーやアマメシバを含む健康食品で、有害成分による健康被害が発生しました。素材の安全性が十分に調べられているとは言えないのです。2.については、中国製のダイエット食品で死亡者が出たという報道が記憶に新しいかと思います。食品には使用が禁じられている医薬品成分が含まれていました。3.については、輸入ピーナッツに付いていたカビから発ガン物質が検出されますし、世界的に農薬汚染が進んでいます。

品質の保証とはどんなことでしょうか?

たとえば、ビタミンCを取りたいと思ってドラッグストアに行ったとします。見て回った結果、次の3種類の商品を発見しました。これらの違いは何でしょうか。違いを知って自らの判断で利用しなければなりません。あなたはどれを選びますか?

区分1.医薬品2.保健機能食品
(栄養機能食品)
3.いわゆる健康食品
(栄養補助食品など)

成分

ビタミンCビタミンCビタミンC

可能な効能・
効果表示

しみ、そばかす、色素沈着、
出血などの予防。
皮膚や粘膜の健康維持を助け
る。抗酸化作用を持つ栄養素。
ナシ
(効能表示が出来ない)

一日摂取量

2000mg
薬用量としての基準
1000mg(めやす)
栄養機能食品の基準
1200mg(めやす)
メーカー任せ
保証定量試験、崩壊試験、重量偏
差などの試験済み。国が許可
している
国が規格基準として上限と下
限を決めているが、商品とし
て許可しているものではない
(届け出のみ)。
メーカーが○○mgなどと
表示していても、公的な
基準や保証はない。痕跡
程度から過剰量までさま
ざま。

*ビタミンCそのものは効果や安全性が確かめられているが、食品(2と3)においては、商品としての品質、安全性の保証があるものは少ない。正しい知識を得て、メーカーや販売店の質や姿勢を見抜くことが必要でしょう。(財)日本健康・栄養食品協会のように自主基準を設けて厳しく品質管理しているところもあります。

第4回「効きそうな食品」の中身(2)いわゆる健康食品

2005年08月01日

日本の食品分類の中に「いわゆる健康食品」があります。これは野菜や魚などとともに一般食品に分類されています。中身は実にさまざまで、健康食品、サプリメント、栄養補助食品、ダイエット補助食品等々の名称で呼ばれていますが、いずれも定義や決まりがあるわけではありません。ですから、公的な文書などで用いるときにはストレートに健康食品とは言わずに、いわゆる健康食品あるいは「健康食品」などと表します。

いずれにしてもこれらの食品群は、ヒトの体への何らかの効果を期待して用いられる「効きそうな食品」というわけです。効きそうな食品をじょうずに取り入れて体調を管理したいものですが、商品の種類も中身もさまざまですから、まず、いいものを選ぶための知識が必要となります。

健康を維持するための食品としては、「安全であること」「食品の目的に合ったものであること」が最低限の条件といえます。

◆食品が安全であるとは…

 ・使われる素材に長い食経験があり、有害性がないこと
 ・有効とされる成分が多すぎず、不純物は少なく、衛生的に造られていること
 ・医薬品や不法薬物などを含んでいないこと

◆食品の目的に合ったものとは・・・食品の三つのはたらきを持つ

 1.生命を維持し、健康を保持する・・・栄養素の補給
 2.味や香りなどを楽しむ・・・嗜好を満たす
 3.からだの調子を保つ・・・生体の機能調節

「健康食品」を取るとき、以上の点を満たしているかどうかを見ると良いでしょう。とは言っても、きちんとした基準、試験、表示などの情報がなければ、これは大変むつかしいことです。そして残念ながら、現在出回っている“いわゆる健康食品”には次のような問題点があるのです。

 *品質、安全性の保証があるものは少ない
 *ヒトが食べたときの効果が証明されていない
 *濃縮型の形態のもの(錠剤、カプセルなど)は過剰摂取の危険性がある
 *アレルギー、副作用などの情報がない
 *病気や服用薬への影響があるものがある
 *経済的負担が大きい

icon_tokuho2.gif日本の食品制度の中で、ヒトでの効果と安全性が科学的に確かめられ、効果の表示が認められているのは、保健機能食品(特定保健用食品)だけです。最近、審査の条件が少し緩和された「条件付特定保健用食品」も出はじめました。 右のマークが目印です。次回から問題点を少し詳しく見ていきましょう。

第3回「効きそうな食品」の中身(1)特定保健用食品

2005年07月01日

前回は、医薬品と食品の大まかな分類について述べ、その中でより医薬品に近い食品があると書きました。食品に効果を表示することは禁じられていますが、唯一国が「保健の機能表示ができる食品」と認めている食品があります。

特定保健用食品=トクホです。ちょっと分かりにくいですが、「保健の機能」とは例えば、「血圧を良い状態に保つはたらき」などのことです。次のような表示が認められています。

認められている表示含まれる主な有効成分
◆おなかの調子を整える食品・オリゴ糖類 ・乳酸菌類 ・食物繊維類
◆コレステロールが高めの方の食品・キトサン ・植物ステロール類 ・大豆たんぱく質類
◆血圧が高めの方の食品・オリゴペプチド類 ・杜仲葉配糖体など
◆ミネラルの吸収を助ける食品・カルシウム ・乳たんぱく質 ・ヘム鉄 ・ビタミンK
◆虫歯の原因になりにくい食品・ポリフェノール ・虫歯の原因となりにくい糖類など
◆血糖値が気になり始めた方の食品・L-アラビノース ・グアバ葉ポリフェノールなど
◆食後の血中中性脂肪が上昇しにくい食品・ジアシルグリセロール ・グロンビンたんぱく分解物

icon_tokuho.gif右のようなマークが付いた食品を見たことがあるでしょうか?平成17年5月30日現在、右のマークが付いた「トクホ」は500種類以上許可されて、出回っています。ヨーグルトや飲料、などに多く、納豆にもありますが、これらの種類全てがトクホではなく、一品、一品ごとに許可を受けているので、右の目じるしで選ぶことになります。トクホは、食生活の中で、上表の様な保健の目的」で利用するものであり、一定の効果が確認されています。

この意味でより薬に近い食品といえますが、薬の代わりになるものではありませんし、使い方を間違えれば、逆効果になる場合もあります。「使用上の注意」が必ず書いてありますから、よく読んで使いましょう。例をひとつ。

あなたが検診で、「血圧が高いですね」といわれた場合は、病院に行って医師の診察を受けるでしょう。高血圧症と診断されれば血圧降下薬を処方されると思います(高血圧治療薬)。では、「血圧が高めですね」といわれたらどうしましょうか。慎重な方は、とりあえず医師の診察を受けるかも知れませんが、多くは自分で食事や生活習慣を見直して様子を見るのではないでしょうか。このようなときに、「血圧を良い状態に保つ」目的で用いるのが、トクホの「血圧が高めの方の食品」なのです(高血圧予防食)。ときどき、高血圧で治療薬を飲んでいるのに、トクホ食品を摂ったり、医者の薬はイヤだからトクホで治療したいという方がいます。これは正しい使い方ではありません。血圧が安定しなくなったり、悪化してしまうことがあります。トクホを利用したいと思ったとき、薬剤師や医師に相談してみるといいですね。

第2回 効きそうな食品

2005年06月01日

前回「食」と「くすり」はもともと同じと書きましたが、現在日本では、食品は「食品衛生法」という法律によって次のように決められています。食品とは、医薬品(医薬部外品も含む)を除いたすべての飲食物をいう

こう言われたとき、どんなイメージが浮かぶでしょうか。医薬品とは、病院から処方せんを受け取り調剤薬局でもらう薬、あるいは薬屋さんで買うかぜ薬など、食品とは、スーパーの食品売り場に並んでいる食材などではないでしょうか。

では、薬局、ドラッグストア、コンビニなどで、「くすり」のようなパッケージ(多少派手め)に入ったカプセルや錠剤は何でしょう。箱には「糖尿病が治る」とか「がんに効く」とか「若返り、シワが取れる」などとは決して書いてないけれども、どこで知ったか、「たまねぎエキス錠」とか「アガリクス抽出エキス」とか「CoQ10カプセル」などを迷わず買っていきます。効果を信ずるあまり、それらを医薬品と勘違いしている人もいて、「医薬品は薬のレジでお願いします」というと、上記のような商品を持ってくる方が多いのです(ドラッグストアに勤める薬剤師のコメント)。

医薬品食 品
 医療用医薬品
 一般用医薬品
 医薬部外品
 保健機能食品
 特定保健用食品
 栄養機能食品
 いわゆる健康食品 通常の食品(食事)

実は、医薬品と通常の食品の間には、何らかの作用を持つ素材をさまざまに加工してつくられた「食品群」があります。より医薬品にちかい「保健機能食品」と「いわゆる健康食品」と呼ばれるものです。「保健機能食品」は国が機能の表示を認めた食品です。別の機会に詳しく書きます。

自然界にはさまざまな作用成分を含むものが沢山あります。前回書いた薬食同源のことを思い出してください。健康時は一般食材として食べているものを、病気になったときは、配合を変えたり、調理法を変えたりして効果を高めていたのです。また、病気のときにしか使わない素材もあったでしょう。この意味では現代の「いわゆる健康食品」にもある種の作用・効果が期待されます。

「効く食品」はありませんが(効くと表示できるのは医薬品だけ:薬事法)、 「効きそうな食品」はあります。本当に「ヒトが食べて効く」かどうかは、科学的に検証されなければならず、もし効果が証明されたら、もはや食品ではなく薬になります。ということは、「効きそうな食品」には「あまり役に立たないもの」と「強い作用(副作用も)があるもの」が含まれることになりますね。ともあれ、現在大ブームになっている「効きそうな食品」の問題点を知っておいた方が良さそうです。

第1回 食と薬の関係

2005年04月01日

むかし、「食」は薬だった・・・薬食同源(医食同源も同じ)という言葉を聞いたことがあるかと思います。

中国・唐の時代に楊上善という人がつくった書物「黄帝内経−太素(こうていだいけい−たいそ)」の中に「五穀、五果、五畜、五菜、これを用いて飢えを満たすときは食といい、これを用いて病を治療するときは薬という」と書いてあるそうです。薬も食も同じ源であるという意味です。現代風になおせば、健康の基本はしっかりした食事というところでしょうか。普段はバランスの取れた良い食事を心がけて病を予防し、病気になってしまったときは、その病に合った食材を組み合わせて生物としての自然治癒力を高めるという風に考えられ、この辺から「薬膳」というものが生まれたようです。

現代の薬食同源?・・・今も薬食同源の考え方は生きていると思いますが、社会の進歩や環境の変化で食事だけでは対応できない病気が増えました。現代の薬ももとは食材や天然の木根草皮から生まれたものが多いのですが、今ではコンピューターが設計して、ひとり一人の患者に合わせた薬を創るところまで進んでいます。高度な薬を使わなければならない時は、医療機関でしっかり治療を受けることになりますが、日常的には市販のかぜ薬や胃腸薬を利用して健康維持をはかっているのではないでしょうか。

いま国は、「セルフメディケーション」という考え方を提唱しています。難しそうに聞こえますが、セルフ=自己、メディケーション=治療という意味です。もちろん「自分流に勝手に治す」という意味ではなく、「バランスの取れた良い食事を基本として、軽い体の不調は、市販薬などを上手に使って、自らの健康管理に責任をもちましょう」ということです。ある意味では「薬食同源」に通ずる考え方といえるかも知れません。

セルフメディケーションと健康食品・・・食事と市販薬で健康管理と書きましたが、テレビや雑誌で紹介されている「効きそうな健康食品」はどう使えばいいのでしょう?

健康食品、サプリメント、栄養補助食品など様々な名称で売られていますが、これらは全て野菜や肉などと同じ一般食品に分類されています。「効きそうな食品」と「効く食品」は違います。そして、「効く食品」は特別なものを除いてはありません。あったら違反です。

でも・・・効くと勧められて飲んでいるクスリがあるんだけど・・・という方もいるかも知れませんね。それは本当に薬ですか?だんだん話しがややこしくなってきました。

からだに良さそうな食品を上手に用いて、これからのセルフメディケーション時代を、健康で心豊かに過ごすために、役立つ情報をお伝えしていきたいと思います。