8.上手にセルフメディケーション「話題の食品を追って��気になる情報1」
2016年08月05日
先月号(2016/07/05)で「公告の落とし穴」にはまらないためのポイントを5つ挙げましたが、
最近ではもう少し追加しなければならないようです。大手企業の機能性表示食品などの
新聞広告やインターネット上のホームページなどでは、きれいなカラーのイラストやグラフ
などを用いて医薬品並み(以上)の「効果や作用」を印象づけています。それだけを見れば
確かに効果はありそうで気持ちが動きますが、効果の程度や確からしさのレベルは医薬品に
比べてずっと低いものです。限られた人数や条件での効果や副作用の試験では、大勢の人に
当てはまるかどうかは不明なのです。二つのポイントを追加します。
落とし穴の例�� 公告に示されているデータは、受け手が想像する「効果や作用」よりもずっと
低いことが多い
落とし穴の例�� メーカーが示すデータは大勢の人に当てはめられるものではなく、自社に
不利なデータは示されないのが普通である
今月の気になる情報として「グリシン」について考えてみたいと思います。グリシンと言えば
味の素から出ている「グリナ」でしょう。睡眠サプリとしてグリナが発売されてから10年で
100万人以上の方が使ったそうです。謳っているのは「睡眠改善効果」ですが、100万人の
方は本当に睡眠が改善されたのでしょうか?
ある成分が「効く」というときには、その成分の本質(どんなもの?)と作用機序(どうして
効くの?)を確かめなければなりません。
グリナの成分グリシンとは、必要に応じて身体の中でつくられているアミノ酸で、人では
1日に約45gのグリシンが体内で合成されており、食事として魚介類や肉類などのタンパク質
(何種類ものアミノ酸が結合してできている)からも3〜5g摂取されているといわれています。
グリナの一日摂取量の目安も3gです。
さて、睡眠薬の多くは脳に作用して効果を現しますが、グリシンも脳に作用するのでしょうか?
グリシンを食べると、腸から血中に取り込まれます。しかし、グリシンは脳へは入れない性質を
持っているので脳には作用しません。
それではグリシンにはどのようなしくみで効くのでしょうか?メーカーのうたい文句は
「アミノ酸“グリシン”が深部体温を下げて深い睡眠に導きます」です。
ちょっと変な気がしませんか?
グリシンは本来身体の中で作られているものであり、その10分の1以下の量を体外
から取り入れることによって生命活動の基本である体温が簡単に下がるものでしょうか?
ランチタイムにお肉を沢山食べたら深い睡眠に導かれるでしょうか?
ヒトの睡眠や体温は脳にある体内時計が刻む生体リズムによって調節されています。
この生体リズムは、朝から昼、夜への1日の変化や、季節の変化に対し、効率よく適応
できるように身体の状態を調節しています。睡眠と体温は体内時計を通して影響しあっており、
他の研究で「眠りに入るときには自分で体温を下げている」「眠ると結果として体温が低くなる」
ということが確かめられています。また、深部体温が低いときに眠りやすさが強くなることも事実です。
ここで問題になるのが、メーカーの言うように「グリシンが深部体温を下げるかどうか」です。
メーカーはラットを使った実験を根拠としています。確かに眠ると体温が1℃低くなりますが
末梢血流を増加させて、深部体温を低下させる作用かどうかは明らかではありません。
また、睡眠の質が良くなるという実験もしていますが、試験対象者が11名しかいないので
試験としての信頼性は高くありません。さてどう判断しましょうか?
「作用はないが効果はある」ということもしばしば経験することです(プラシーボ効果)。



